ローライのコンパクトフィルムカメラ【Rollei QZ35W】の外観レビュー
忘れ去られた悲運の超高級コンパクトカメラ
1960年代に超コンパクト35mmカメラ「Rollei35」を送り出し世界を驚かせたドイツメーカーのローライだが、その後の経営は順調と言えず倒産、買収合併を経験する。
そんな中でも90年代にはAFコンパクトカメラを多数揃えており、1997年に超高級コンパクトカメラ【Rollei QZ35W/T】を発売した。
QZ35WとQZ35Tの2機種が同時発売され、28-60mmと38-90mmのズームレンズを搭載。違いはレンズのみでその他性能は全く同じ。
それよりも驚くべきは《¥295,000》と言う正気を疑う超高価格で、
当時は「高ッッか!!誰が買うねん!!」と呆れ半分に話題になったそうです。
限定品を除けば史上最高額のコンパクトフィルムカメラになる!?
しかし一体どれだけの人が買ったのだろうか。既に日本メーカーの高級AFコンパクトが揃い踏みであったこと。日本市場向けの販路ではなかったことなど察するに、相当なマニアしか買わなかったんじゃないでしょうか…
それを反映してか現在の国内流通数は超希少レベルで、ネット上も日本語で書かれた情報はほとんどない。
私の第一印象は「何かスゴそう」で気になり始めてから想像以上に早いタイミングで入手できたのは幸運でした。
数少ない相場を見ても、今大人気のCONTAX T2、T3、Minolta TC-1、RICOH GRシリーズなどに比べたらもうね、底値も底値。フィルム再燃ブームでも数が少な過ぎて全く注目されず誰も欲しがらない負の状態。
だとしてもキタムラの買取価格は流石にヒド過ぎるわ…
※久しぶりに見てみると買取価格上昇してました笑
そう言えばライカMマウントの「Rollei 35RF(2002)」も当時はてんで売れなかったそうですが、こちらは付属の交換レンズと共に近年相場が高騰してますね。
フォーマット | 24×36mm 35mmフィルム |
レンズ | S-VarioApogon 28-60mm F2.8-5.6 HFT 8群10枚・最短撮影距離0.7m |
シャッター | 金属フォーカルプレーンシャッター B・16~1/8000秒 シンクロ速度1/180秒 |
フォーカス | 外部パッシブAF・フォーカスエイド付MF |
ファインダー | 実像式 倍率0.4~0.9・視野率85%・視度調整-3~+1 |
露出制御 | Pオート・絞り優先・シャッター優先・マニュアル 露出補正±2 |
測光方式 | SPD素子 ズーム連動マルチパターン |
その他 | 多重露出、露出ブラケット、連続撮影、セルフタイマー、 データメモリー機能、外部ストロボ、レンズキャップ兼用リモコン付 |
使用電池 | CR-2リチウム電池×2 |
外寸 | 145×78×59mm |
重量 | 670g |
発売年月日 | 1997/07 |
Rollei QZ35W 外観
まずRollei QZ35は純然たるドイツカメラではないことはハッキリとしている。
このカメラは韓国企業の【SAMSUNG/サムスン】によるプロダクトと言っても良いだろう。
と言うのもローライは95~99年までサムスングループの傘下にあり、その資本下でカメラ事業を展開していた。
その代表が「Rollei Prego/プレーゴ」シリーズで中にはサムスンブランドカメラとベースが同じものもいくつかある。
この時代のサムスンはカメラ事業に積極的だったようで、カメラショーにブースを設け自社ブランドカメラにポルシェデザインや、ローライと関わりの深いシュナイダー製レンズを採用していた。QZ35も最初はサムスンのブースで参考出品されていたらしい。
カタログスペックだけ見ればまるでプロ機だが、実際に手に取ってみると美点と難点がハッキリと見えるカメラで、どうも製品コンセプトが曖昧なまま超高級機を出す目的が先行しているように感じる。
Good
・ポルシェデザインのチタン製ボディ
・明るい高性能ズームレンズ
・最高1/8000秒のフォーカルプレーンシャッター
・P、AV、TV、Mの豊富な撮影モード
・情報表示が豊富な液晶モニター
・撮影情報を記憶するデータメモリー機能
Bad
・洗練さに欠ける操作性
・動作音が大きい
・歯切れの悪いシャッター音
・平凡過ぎるファインダー
・今一つのAF性能
・クセのある測光特性
ポイントをざっと挙げるとこんな感じですが、個々に解説しても不満の方が多くなるので割愛。
スペック面での目玉は最高1/8000秒を実現したフォーカルプレーンシャッターだろう。しかし大口径単焦点でもない限り明らかにオーバースペックで持て余すのが目に見える。
F.A.ポルシェデザインによる曲面フォルムのチタンボディは高級コンパクトカメラの中でも最高のクオリティで大柄なサイズも相まり圧倒的な存在感。ポルシェデザイン繋がりでCONTAX T、Gシリーズなどに似た雰囲気もある。
「CONTAX G PlanarT*35mm F2」を付けたα7IIIと並べてみた。
誰が何と言おうとこれはコンパクトカメラです笑
フルサイズコンデジのZeiss ZX1もそうだけどドイツメーカーは気合が入るとこうなるのかね。
搭載レンズは「S-VarioApogon 28-60mm F2.8-5.6 HFT」
シュナイダーによる設計で製造はローライが行ったそうだ。
ローライ独自のマルチコート技術「HFT/High-Fidelity-Transfer」が施され逆光時にも優れた効果を発揮。
操作性に関しては不満のあるボディだが描写性能に関しては文句なく一級品、開放からシャープで単焦点並みの実力を持つ。このボディサイズだから実現出来た贅沢なレンズなのであろう。
開放F値の変動は以下の通り
28mm F2.8
35mm F3.5
50mm F4.5
60mm F5.6
姉妹機の35Tも同様の8群10枚で若干口径が大きくテレフォト寄りの構成。
インナーフォーカスで全長は変わらない。
絞り羽根は「5枚」と少し寂しく、最短撮影距離は「0.7m」で接写には強くない。
レンズ鏡胴には絞りリングが設けられており直感的な絞りコントロールが出来る。
絞り値全てにクリックがあり中間絞りは使えません。A位置でPモード、シャッター優先に移行する。
フィルター径はやや特殊な「35.5mm」
各フィルターメーカーはこのサイズの現行品がなく、カタログ落ちのアウトレットで調達したマルミUVフィルターを装着。
沈胴式レンズは電源を入れると5mmほどレンズが繰り出す。
60mmまでズームすると上画像まで伸びる。伸縮する鏡胴のガタ付きは全く無い。
ズーム速度はまぁ普通。動作音は騒がしく耳障りだ。静かな場所で使うと間違いなく人が振り向くレベル。
背面側。操作系は右側に集中している。ファインダーには視度調整機構付き。
ファインダーについてはハッキリ言って期待外れ。
ファインダー下部液晶は上位一眼レフと同等の情報量でとても実用的だ。しかし液晶を仕込んだ弊害かビューファインダーが小さく視認性が悪い。
パララックス補正も簡素なガイドのみ。大きなボディスペースを活かしてもっと贅沢なファインダーにして欲しかったものです。この点はデザイン重視の犠牲になったようにも感じる。
ボディ上部。「DESIGN BY F.A.PORSCHE」がこれ見よがしである。
中央の液晶画面にはファインダー内液晶以上の情報量で非常に充実している。ズームによる焦点距離も表示され2~3mm刻みと非常に細かい。
また低照度下ではバックライトが自動点灯する。
液晶には高硬度サファイヤガラスのカバーが使用されておりキズなどに強い、はずなのだがこの個体は何かにぶつけたのかABCボタンの近くにヒビが入ってしまっている。一応ガラス用レジン接着剤で補修済み。
ABCボタンはブラケット撮影設定の他、モード、ドライブボタンで変更した設定を確定する決定ボタンとしても使う。
左右のダイヤル機能はフォーカスとシャッタースピードに割り当てられている。
フォーカス側はAの位置のみクリック付き、シャッター速度側は全ての目盛りにクリックがある。
ダイヤルはポップアップ式で押し込むことで飛び上がり操作しやすくなる。日本メーカーにはないような独特のアイデアだ。
しかしどう考えても設計ミスなのは、引っ込んでいる状態でもダイヤルが簡単に回ってしまうことだ。なぜロック機構を付けなかったのか。
これではカメラを構える際にダイヤルが不意に動いていないか一々確認しなければならない。
裏蓋を開けた状態。フィルム室もかなりしっかりした作り。
自慢の金属幕フォーカルプレーンシャッターが見えますね。またモルトはそれなりに使われています。
デート機能用の電池は裏蓋内から交換するのだが、その方法はフィルム圧着板を取り外して行うと言うかなり抵抗感のある方法。私は初めに古い電池を取り出して以降は触らないと決めた。
ボディ底部。全身一貫してチタン素材を使い抜かりがない。
製造国を示す文字はなく「Rollei Fototechnic Germany」とあるだけ。
個体によっては「Assembled in Korea」の文字が入っているものがあるが、それがどのロットから入っているかは不明。まぁドイツ、シンガポール製ではないことは確かだろう。
使用する電池はリチウム電池「CR2×2」
フィルム巻き取りスプール内の空洞をバッテリースペースに利用している。
付属品として外付けの専用ストロボ20QFが付属。使用電池は「CR123A×2」
グリップになるほど大柄であるがクラシックスタイルで見た目は面白い。
ストロボは角度調整可能でカメラとの接続部で上下にストロボヘッド部分が左右に動く。
シンクロ速度は最高1/180秒、当初はTTL調光でより高精度になる計画だったと言う話もある。
残念なのはコード被覆が経年劣化でボロボロに剥がれ落ち、リード線がむき出しになっていることだ。
何かしらの補修は必須だが、ストロボを使うつもりはないので現状のままにしておく。
Rolleiロゴ入りのレンズキャップも付属。これがただのキャップではなく…
赤外線リモコンとしても使える便利な機能も備えている。
ただ、この機能を優先した為かレンズキャップとしての使い勝手には優れず、外れやすく厚く大きい。万一紛失すると替えが利かないのであんまり持ち出したくないんだよね。
ストラップは両吊り。取り付け金具がやや特殊なもので中判カメラによく見られるタイプだ。付け外しは素早く行える。
純正ストラップも付属していたが質感が好みではなかったので、使い慣れたレザーストラップと交換した。
まとめ
機能モリモリで語ることが多く、レビューが思った以上に長くなった。需要はともかく、日本語サイトでここまでQZ35をピックアップした記事は希少かと思います笑
一応フィルムを詰めて撮影もしているが、良くも悪くも使いこなし甲斐のあるカメラでまだ納得出来る写真が撮れていないのが現状。
もし、このボディで例えば35mm F1.8の大口径単焦点モデルも出せば今でも高値が付く名機種になれた可能性もあるのが惜しいね。
個人的にローライのAFコンパクトカメラなら「Rollei 35AFM」がオススメ。まぁこれはFUJIFILM KLASSEのまんまOEMなんだけど笑
その分定評があり信頼出来ると言うことです。
以上【Rollei QZ35W】の外観レビューでした。
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