Canon FLマウント 大口径標準レンズ2本の性能比較レビュー
キヤノンFL時代の超大口径標準レンズを比較
今回は1960年代に発売されたCanon FLマウントの2本の超大口径標準レンズを比較してみました。
- FL 55mm F1.2
- FL 58mm F1.2
共に50mmF1.2に至る過程で生み出されたレンズでスペックも良く似ている。
FL55mmは58mmの改良型であるが両方今となっては半世紀前のオールドレンズ。相場も大きな差はなく2万円以内で入手出来るコスパの良い大口径レンズだ。ただ最近は状態の良い個体が減っているように感じますね。
キヤノンカメラミュージアム
◆FL55mm F1.2
◆FL58mm F1.2(I)
FL 55mm F1.2 | FL 58mm F1.2 | |
発売年 | 1968年 | 1964年 |
レンズ構成 | 5群7枚 | 5群7枚 |
絞り枚数 | 8枚 | 8枚 |
最短撮影距離 | 0.6m | 0.6m |
フィルター径 | 58mm | 58mm |
最大径×全長 | 67 x 52.5mm | 64.5 x 52.5mm |
重量 | 480g | 410g |
外観比較
FL 55mm F1.2 / FL 58mm F1.2
2本を並べて比較。絞りリングが先端側に配置されているのがFLレンズの特徴。
実際に手に取ってみると数値以上にFL55mmが全体的に太くどっしりした印象がある。これがFD55mmF1.2になるとさらに太くなりますからね。
重量もFL55mmが70g重い「480g」
またFL58mmはI型とII型が存在する。外観やスペックの相違はなくコーティング等が変更されたマイナーチェンジだと思われる。この個体は製造番号からI型と推測。
FL 55mm F1.2 / FL 58mm F1.2
FLマウントは後のFDマウントと互換性があるものの、一部のレンズはマウントアダプターに装着出来ない問題がある。
上の画像を見るとFL55mmが平坦なマウント面に対し、FL58mmはマウント半周辺りから傾斜が付き一段盛り上がった形状になっている。
この段差とマウントアダプター内の絞り押えピンが干渉してレンズが装着出来ない。
マウント面の段差に機能的役割があったのか分からないが、FLレンズ後期頃にはほとんどが段差のないレンズになり問題なく装着出来る。
装着するにあたって最も手っ取り早いのがアダプター内のピンをドライバーで取り外すこと。残ったネジ穴は光漏れの原因となるのでパーマセルテープなどで隠しておけばいい。
FL58mmは少々不便なプリセット絞りになるがこれで無事使用可能になる。ピンを抜いた状態でもFL55mmの方はA-M切替えレバーをMにすれば問題ない。
実写比較
ボディ:SONY α7III
Adobe Lightroomで同パラメーターRAW現像
カメラは三脚固定の同位置から撮影
画像ギャラリーはクリック拡大後、キーボード左右キーや画像内矢印アイコンで画像の切り替えが出来ます。
遠景
写真が多くなるので全景ではF1.2とF8だけにするが、周辺減光は両者「F5.6」でほぼ解消します。
それよりも色調が違うことに気付くと思います。FL58mmがえらく黄色っぽい。もちろんWB/ホワイトバランスは同じ数値。
正体はFL58mmには屈折率を上げる目的で《トリウムレンズ》が使われているためで経年による黄変が色調に影響を及ぼす。
まぁデジタルではオートWBあがあるので単体使用時は特に気になることはないでしょう。
中央拡大
ここではディテールを比較しやすくするためにWBを近付けました。
左がFL55mm、右がFL58mm
FL55mm / FL58mm
大口径なので開放こそ球面収差が出るものの、少し絞れば両者共に単焦点らしいシャープさ。しかしFL55mmの方が一歩上の解像感がある。
解像のピークはF8でF11辺りから回折現象により解像度は落ちる。
周辺拡大
FL55mm / FL58mm
レンズ性能が出やすい周辺部でハッキリと差が表れた。
FL55mmは開放で球面収差によるソフト感があるが、像は流れていないのがスゴイ。F2.8で実用レベルになり像面湾曲が高度に補正されていることが分かる。
FL58mmは開放から数段絞っても流れ気味で、F5.6過ぎから解像感が出てくる。解像ピークのF8~F11でもFL55mmに届かず。
うむむ。FL58mmはもうちょっと頑張って欲しかったところ。これは片ボケではなく画面全体でこのような写りでした。
近接撮影・ボケ
約1m先の彼岸花にピントを合わせて撮影。絞りはF1.2~F4まで。
FL55mm F1.2
FL58mm F1.2
FL55mm F2
FL58mm F2
FL55mm F2.8
FL58mm F2.8
FL55mm F4
FL58mm F4
周辺が危うい描写のFL58mmもボケを活かした撮影では特に粗は見えない。ピント部のシャープも十分。遠景よりもスナップやポートレート域が得意なのかも。
焦点距離の差もあるけどFL55mmの方が若干ボケが小さく硬い印象かな。
ただ逆光耐性はFL55mmが断然上です。FL58mmはレンズフードが必須なレベルで、この写真ではフード代わりに手をかざして撮影した。
コマ収差
夜景で遠景にピントを合わせて撮影し、左下周辺を拡大。
大口径レンズで発生しやすい「コマ収差/サジタルコマフレア」の比較をした。
意外なことにコマ収差はFL55mmがやたらと大きく出た。両者共F2.8でほぼ解消する。
しかし植込みのディテールはFL55mmが抜群に優れる。レンズ設計の収差補正のバランスは素人には分からないが、周辺画質との引き換えと見て良いのかな?
開放のコマ収差に対しては研削非球面レンズを採用した【Canon FD55mm F1.2 AL】が威力を発揮するはず。まぁ値段が違い過ぎるので比べるのもね。
コマ収差についてはニコンのニッコール千夜一夜物語の記事が分かりやすい。
【ニッコール千夜一夜物語:AI Noct Nikkor 58mm F1.2】
まとめ
結果としては端正な描写ならFL55mm、クセ玉好みならFL58mmです。
正直に言うと比較撮影に行く前から、FL55mm F1.2がほぼ全ての面で上回ることは分かっていました。このレンズは個人的に絶賛したいレンズで、FL58mmはもちろん、後の「NEW FD50mm F1.2」よりもオススメしたい。
58mmの改良型とは言え、ここまでかと思うほど高性能で完成形であるNEW FD50mm F1.2にはない描写力を感じた。何度も使用してそれが思い込みではないことも確信している。モノコーティングであることもそれほど弱点にはならない。
デザインや操作性も良く、何よりも現状格安で入手できるのでキレイな個体が出ていれば確保する価値あると思いますね。
以上Canon FL大口径標準レンズの比較レビューでした。
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