現代レンズとオールドレンズの55mm F1.8を比較してみました。
技術差40年の標準レンズを比較!
SONY Eマウント用の標準単焦点【Carl Zeiss Sonnar T*FE 55mm F1.8 ZA】ってよくよく見れば、オールドレンズでお馴染みのスペックだったなと今さら気付いた。と言うことで、
1972年「PENTAX SMC Takumar 55mm F1.8」
2013年「SONY Carl Zeiss Sonnar T*FE 55mm F1.8 ZA」
の2本を比較してみることにしました。
発売年の差は約40年。その間にズームレンズの台頭もあり標準単焦点の立ち位置も変化した。
Sonnar55mm F1.8は初代α7と同時期に登場した初期のFEレンズで、コンパクト&高解像を高レベルで両立。Zeissとしては価格も抑えられており今だに人気は衰えない。
対するSMC Takumar 55mm F1.8は
“ベスト・オブ・入門オールドレンズ”
と呼ぶにふさわしい銘玉で価格、入手性、作りの良さ、描写バランスなど手軽にオールドレンズを楽しめる魅力に溢れている。
M42マウントのTakumar 55mm F1.8は幾多の小改良が繰り返されており様々なモデルが存在する。今回選んだのは最後期のマルチコーティングが施されたSMC版。このレンズのみピントリングがゴムタイプになっているので外観での判別は容易。
Sonnar T*55mm F1.8 ZA | SMC Takumar55mmF1.8 | |
レンズ構成 | 5群7枚 | 5群6枚 |
絞り枚数 | 9枚 | 6枚 |
最短撮影距離 | 0.5m | 0.45m |
フィルター径 | 49mm | 49mm |
全長×最大径 | 70.5×64.4mm | 38mm×59mm |
重量 | 281g | 201g |
歴代のTakumar55mmは5群6枚の変形ガウスタイプを踏襲しつつも、Super-Takumar表記のある時期から5群目に「トリウム含有レンズ」いわゆる“アトムレンズ”を使用し光学性能の向上を図っている。
現在は経年によりレンズ黄変の症状が出るものの、元々の設計に無理がなく含有率が低いからか同じアトムレンズのTakumar50mm F1.4より黄変は軽微です。
Sonnar55mmは5群7枚構成で非球面レンズを3枚使用。前玉に凹レンズを配置した独特のミラーレス専用設計。
Takumar55mmにSONY E用マウントアダプターを装着すると全長はほぼ同じ。
どちらもミラーレスの機動性を損なわない取り回しの良いサイズ感です。
遠景比較
ボディはSONY α7III 三脚を使用し同位置から撮影。
Adobe LightroomでRAW現像。周辺光量補正は2本とも未補正にしています。
画像ギャラリーはクリック拡大後、画像内矢印アイコンやキーボード左右キーで切り替え可。
全景
Sonnar 55mm F1.8
SMC Takumar 55mm F1.8
見比べるとSonnar55mmの方が若干画角が広く写るようだ。周辺光量落ちは2本ともF5.6でほぼ解消。
またTakumar55mmはアトムレンズの影響か若干アンバー寄りの色合いで2本のWBを完全に揃えるのは難しい。
続いて赤枠部分の中央と周辺を拡大。
以下、拡大の比較画像は左がSonnar、右がTakumarです。
中央部
Sonnar / Takumar
Sonnarは開放から高い解像力でF2.8で既にピークに近くF8辺りから回折現象により解像度が落ち始める。
Takumarには開放で球面収差のにじみ(ハロ)が見られ、およそ一段絞れば解消する。
2本とも単焦点らしいシャ-プな描写だが、柵の部分に軸上色収差と思われるカラーフリンジがありSonnarはF1.8まで、TakumarはF4過ぎた辺りまである。これはLightroomのフリンジ除去ツールで容易に補正可能。
周辺部
Sonnar / Takumar
周辺部は現代とオールドレンズの性能差が顕著に現れた。
Sonnarは中央部とほぼ同じ高い解像力で回折が出るタイミングも同じ。
Takumarは像面湾曲などの影響が大きく、像が鮮明になるのはF5.6以上に絞る必要がある。
近接撮影・ボケ
意外にもボケ味には特段の差異は見られない。F2.8は若干Sonnarの方が硬めな感じかも。
ピント部はSonnarの方が断然シャープなのだが、ボケ量の多い写真だと遠景の時ほど性能差は明確に現れないようだ。
玉ボケ
イルミネーション用LEDライトを背景ボケに見立てて撮影。
Sonnar 55mm F1.8
円形絞りを採用したゾナーはある程度絞り込んでも玉ボケは丸い。
少し気になるのはF2.8、F4の四隅の玉ボケはケラレたように一部が欠けているのが見える。マウント部の四角いフレアカッターが原因か?
Takumar 55mm F1.8
タクマーはF2.8~4まで絞り羽根の形状により玉ボケがギザギザの手裏剣状になる。
これは個体差ではなく、少なくとも一つ前のSuper-Multi-Coated版でもこの絞り形状になります。
Sonnar / Takumar
玉ボケ比較で最も大きな違いは、玉ボケ内のディテールだ。
ゾナーには【年輪ボケ/タマネギボケ】と呼ばれる同心円状の模様が出てしまう。これは非球面レンズを使用したレンズによくある現象で、点光源の多いイルミネーション撮影などでは少し目障りになることがある。
非球面レンズ使用による高画質化の恩恵に比べれば年輪ボケは“特殊条件下の現象”と言うことで個人的には許容出来るが、
近年はメーカーもこれをウィークポイントと捉えたのか、特に高級単焦点では超高精度非球面レンズを使用することで抑制する傾向になってきている。
逆光耐性
日中の太陽光ではなく夜間の街灯をフレームインさせて撮影。フィルター、レンズフードは装着していません。
Sonnar 55mm F1.8
画面内に強い光源があるにも関わらず開放から驚くほどヌケが良くコントラストが高い。さすがZeiss自慢のT*コーティングの実力と言うことか。
しかし回折の影響か絞るほどにゴースト、フレアが現れてくるようだ。
SMC Takumar 55mm F1.8
開放で現れる虹色のゴーストが特徴的。
多少のフレアと絞りの形をしたゴーストは常に存在し続ける。
オールドレンズゆえにゴースト/フレアは避けられないがマルチコート仕様だけあって十分健闘しているんじゃないでしょうか。
しかしタクマー55mmが人気の理由には「幻想的なゴースト、フレアが簡単に出せる」と言うオールドレンズならではのポイントがあり、逆光耐性が向上したSMC版は歴代タクマー55mmの中でも人気は低い状態にある。他にもレンズ黄変、バルサム切れ発生率などの理由もあるが。
もっと派手に虹色のゴーストを出したいならモノコート仕様のSuper-Takumar版が最適でこちらの方が流通数も多い。
コマ収差
遠景中央にピントを合わせ、左下の赤枠部分を拡大。「コマ収差/サジタルコマフレア」を比較。
Sonnar / Takumar
ゾナーは開放でほんのわずかなコマ収差がある程度でディテールも鮮明。余裕の実用レベルでしょう。
タクマーの開放はまるで猫の目のようなコマフレア。ディテールも甘く、F5.6でなんとか…と言った所。コマ収差に加え、非点収差やら像面湾曲なども合わさっているような。
光芒/光条
太陽や夜の街灯などの強い点光源から光が放射条に伸びる「光芒/光条」を比較。
光芒がハッキリと出るように設定はF16です。
ゾナーは9枚の奇数絞りで2倍の18本の光条が出る。
タクマーはオールドレンズによくある6枚偶数絞りで絞り枚数そのまま6本の光条。
近年のレンズは円形絞りを優先した結果なのか、ほとんどが奇数絞りでウニ型の光芒だ。
これは性能よりも好みの判定になるが個人的には偶数絞りのクロスフィルターのような光芒が使いやすく感じる。
まとめ
結果としてはSonnarT*55mm F1.8が現代レンズの性能を見せつけることになったが、玉ボケや光芒ではTakumarにも分がある箇所も見られた。
まぁそもそも、いくら焦点距離とF値が同じだとしてもツァイス基準で作られたミラーレス用レンズと70年代の安価なキットレンズ。製品クラスがまるで違うレンズなのは分かり切っていたことです笑
とは言えそれぞれの特徴を活かせばスペックが同じでも使い分けが出来る。この2本の場合はクール系とゆるふわ系かな。
標準レンズ一つでも何種類も集めたくなるレンズ沼の奥深さでもあり罪深さしょうねぇ。
以上2本の55mm F1.8レンズの比較でした。
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