国産3大メーカーの定番標準レンズを実写比較
今回はL39マウントの日本製ノンライツ標準レンズ3本を比較してみることにした。
- Canon 50mm F1.8 I
- NIKON NIKKOR-H・C 50mm F2 (黒帯)
- MINOLTA SUPER-ROKKOR 50mm F1.8
それぞれ1950年代にカメラボディとセット販売されていた標準レンズとなる。大手メーカー製なので現在の流通数も多く相場も安値安定しており気軽に入手しやすい。
この中でNIKKOR-H・C 50mm F2は自社ボディのニコンSマウント用ではなくniccaなど他社に供給していたL39マウント用を選出。これは絞り値の視認性を改善した“黒帯”と呼ばれる最後期モデル。
3本とも光学コンディションは軽微な拭きキズ程度でオールドレンズとしては美品と言える状態。

Canon | MINOLTA | NIKON | |
レンズ構成 | 4群6枚 | 5群6枚 | 3群6枚 |
絞り枚数 | 10枚 | 10枚 | 10枚 |
最短撮影距離 | 1m | 1m | 0.45m |
フィルター径 | 40mm | 46mm | 40.5mm |
発売年 | 1952年頃 | 1958年頃 | 1950年頃 |

今となってはどれも古典的なレンズ構成であるが最も先進的なのはMINOLTAの5群6枚ガウスタイプで国産カメラの主流が一眼レフへシフトし始めた頃の設計。
次いで4群6枚ガウスタイプの模範と言えるCanon、NIKONは最もクラシックなゾナータイプで開発は戦前からとされる。
比較撮影設定
使用ボディ:LEICA M10-R・一部にSONY α7CII
カメラは三脚固定・ISO固定・フード/フィルターなし
Adobe Lightroomで同パラメーターRAW現像
遠景解像
画像ギャラリーはクリック拡大後、画像内左右の矢印アイコンやキーボード左右キーなどで切替え可。



初めにホワイトバランスを揃えて比べてみると色調にハッキリと違いがあることが判明。ざっくり分別すると以下のような雰囲気に写る。
●Canon:ニュートラル
●Nikkor:ウォームトーン
●Rokkor:クールトーン
デジタルはAWBもありRAWで調整するのなら大した違いにならないと思うが、フィルム撮影の場合は全体的なトーンに影響が現れる可能性もありそう。
続いては画像の赤枠内2か所を拡大比較。

中央部







絞り開放ではそれぞれフレアを伴うソフトな描写だが1段でも絞ればコントラストが上がり単焦点らしいシャープさになる。
開放で高コントラストでシャープなのはRokkorで最もソフトなのはNikkorだ。
解像力はF4で既にピーク、F11以降で回折現象による解像低下がわずかに現れる。
また微妙な違いでしかないがCanonは線が細めでNikkorは太めにも見える。
周辺部
周辺部はディテール確認のため周辺光量補正あり。







開放は中央と同様にソフトではあるがオールドレンズの周辺画質としては決して悪くはない。
絞り込むほどにシャープになりCanonとRokkorはF5.6で良好に解像、Nikkorは1段以上遅れがありF11で3本とも同等の画質に並ぶ。
古典的なゾナータイプはデジタルセンサーとの相性はあまり良くない傾向がありNikkorもそうだと思っていたがガウスタイプと比べても顕著な見劣りはないと見える。
ただこれはセンサーカバーガラスが極薄のデジタルライカでの結果であることは留意が必要。
近接撮影・ボケ
最短撮影距離1mで撮影




ボケ味については正直言って一目で判別できる明確な違いはないかも知れない。もちろん作例レベルの低さもあるが…
下画像は絞り開放の拡大比較。

年代的にはどれも主流の過剰補正タイプ/オーバーコレクション設計なので後ボケは硬くザワザワした傾向を持ち2線ボケが出るシーンもある。
反面に前ボケは滑らかなので特に気を使う必要はない。
ボケ比較は下に別シーンも載せてみる。




Rokkorがわずかに膨らみのある後ボケに見えるがやはり大差はなさそう。ぐるぐるボケは3本とも発生しないようだ。

注目すべきはNikkorには距離計連動範囲を超えた最短撮影距離0.45mを持つので他の2本には真似できない近接撮影が可能。ピントリングには1mの位置でクリックストップがあり近接モード切替えを知らせてくれる。
フィルム時代だと近接時の撮影距離は目測かつパララックスの問題もあり使いこなしは難しかったと思われるが、デジタル撮影ではライブビュー撮影によってこのボーナススペックをフルに活かせるようになった。
歪曲収差



Canon、Rokkorにはガウスタイプで良くあるタル型歪曲、ゾナータイプのNikkorは反対方向の糸巻き型の歪曲となる。
どれも歪曲が悪目立ちするシーンは稀と見えるが気になった場合でも後補正は容易に行える。
逆光耐性







個人的にオールドレンズ比較で最も楽しみとなる逆光のゴースト・フレアの違い。
Canonは開放でリング状の虹色ゴーストが出現。絞り込むとパープルのゴーストも現れる。
Nikkorはフレアが最も広がるがゴーストは案外目立たず割と大人しく見える。ところがF5.6辺りから光条が目立ち始め最終的には画面内に大きく写るほどになった。
Rokkorはコーティング色のアンバーカラーを反映する多段のゴーストが並ぶ。
どれもオールドレンズらしい個性的な結果となり優劣は決め難く完全に好みの領域となるだろう。
玉ボケ
玉ボケ比較のみα7CII+ヘリコイドアダプターで撮影。




ガウスタイプのCanon、Rokkorは玉ボケの形状にほとんど違いはない。若干Rokkorの方が大きく写るようにも見える。
Nikkorは開放値に少しハンデがあるので玉ボケは小ぶりになり形状は他の2本と違う特徴となっている。
絞り羽根は3本とも10枚だがRokkorは丸鋸のようなギザギザの玉ボケになる。こう言うオールドレンズは特に珍しくもないが使い所を選ぶシーンがあるかも知れない。

開放の玉ボケを拡大するとNikkorが独特でバブルボケ寄りの玉ボケになっている。ただ口径食もあるのでバブルボケを期待して使うレンズではないと思う。
コマ収差

夜景を撮影し画面周辺部の点光源を拡大。コマ収差/コマフレアを比較。





CanonとRokkorはコマ収差の大きさは似ているが内向き/外向きと広がり方に違いがある。
RokkorはF5.6で解消、Canonも一見同様に見えるがマンション上層の3つの赤いライトがわずかに尾を引いている。
最もコマ収差が大きいのはNikkor、これらは像面湾曲や非点収差の影響もあると思うが。
結果としてコマ収差の補正が優れているのはRokkorとなるが3本とも周辺の点光源を均一に写したいのならF8程度まで絞る必要がある。
光条/光芒

絞りF16で点光源から伸びる光条/光芒を比較。
3本とも絞りが偶数の10枚なので10本の光条が伸びる。
Canonは光条の伸びがあまり目立たずやや拡散したようになる。Rokkorは模範的な伸び具合。
Nikkorは3本の中では最も形が整っており光条は刺々しいほどだ。
まとめ
流石にこの年代のオールドレンズなら多少の個体差はあって当然の認識であるが今回比較した個体に限ると、
◆解像力/平坦性:Rokkor>Canon>>Nikon
◆ボケ:無評価
◆歪曲収差:無評価
◆逆光耐性:無評価
◆玉ボケ:無評価
◆コマ収差:Rokkor>Canon>>Nikon
◆光条/光芒:Nikkor>Rokkor>Canon
オールドレンズ故にフィーリングによる評価も大きく無評価のジャンルは好みの範囲と言うことで。
個人的に進んで持ち出したくなるのは「MINOLTA SUPER-ROKKOR 50mm F1.8」で比較的安定した描写と操作性に優れた鏡胴の作りが気に入っている。この3本の中ではちょっとだけレアなことにも惹かれているかも知れないけど。
結論としては状態の良い個体であれば1度手に取ってみることをオススメできる。約70年前に製造された国産レンズの高品質さを十分に味わえるはず。そして危険なL39沼の入り口としても最適な標準レンズと言える笑
以上、国産ノンライツ標準レンズの実写比較レビューでした。
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