ジャンクからの復活。コンパクトな銘玉“サンハン・ズマロン”
今回は「Leitz Wetzlar Summaron 35mm(3.5cm) F3.5」をレビューします。

【サンハン・ズマロン】の愛称を持つ「Summaron 35mm F3.5」は、ライカ製35mmレンズの中では入手しやすいポピュラーな広角レンズです。
戦後間もない1946年から1960年まで生産されたロングセラーレンズで、総製造本数は約8万本とも言われています。
年代によって世代バリエーションもあり、こちらはL39スクリューマウントで回転式ヘリコイドを採用した「前期型」です。さらにこの個体はコーティングの色が薄く、シリアルナンバーの彫刻に白塗料が入っていない初期仕様です。
50年代中期以降の後期型になると光学系はそのままで直進式ヘリコイドに変更され、Mマウント版も存在します。
1958年には開放値を明るくしたズマロン35mm F2.8も登場。伝説の“8枚玉ズミクロン”とほぼ同じ鏡胴デザインであることも影響してか相場は高騰しています。
マウント | L39/ライカスクリュー |
レンズ構成 | 4群6枚・ガウスタイプ |
絞り枚数 | 10枚 |
最短撮影距離 | 1m |
フィルター径 | 22mm |
最大径×全長 | 約47×21.5mm※ |
重量 | 約147g※ |
発売~終了年 | 1946~1960年 |
※当ブログ実測値
この個体はジャンク品として超格安入手しました。
ジャンクの理由は分解途中で放棄されたような状態だったため。おそらく固着したヘリコイドを分解しようとしたものの、途中で断念されたと推察されます。おまけに一部のネジも失われたままでした。
入手後は手付かずのまま防湿庫に放置していたのですが、光学系はサンハンズマロンでよくある中玉クモリのない貴重な個体なんですよね。
最近になって整備に取り掛かったところ、ヘリコイドの固着も特に無茶することなく解消し素人整備としては上出来すぎるほど動作快調に復活しました。
「ライカレンズなら素人が触らず専門の修理業者に任せるべきだ」という意見も当然あるでしょうが、ヘリコイドの固着は重修理扱いとなり、費用がかさむのは確実です(実体験あり)
たぶん適正価格で売られているズマロンを買い直した方がトータルでは安く済むはずです。

シルバークローム鏡胴の質感はさすがLeitz製といったところで、コンパクトな見た目以上にしっかりとした質感と重量感があります。レンズ銘板や各指標の彫刻も明瞭かつ緻密で加工精度が高く、所有欲を満たしてくれます。
距離指標の目盛りはfeet(フィート)表記で、m(メートル)版も存在します。最短撮影距離は約1mで、絞りリングには各指標ごとにクリックがあります。
フォーカスはレンズ全群が回転繰り出しする「回転式ヘリコイド」です。
このズマロン前期型に限らず回転式ヘリコイドのレンズは、フォーカス時に絞りリングも一緒に回転してしまうのが難点と言えます。フォーカス後に絞りを操作するとピント位置がずれることもあり、慣れないうちは少々扱いづらい機構です。
とは言え、当時からこのレンズの性質としては絞り込んでパンフォーカスで撮影するのがセオリーだったはずで、頻繁に絞りを操作したり、二重像でピントを追い込んだりするような使い方は重視していなかったと考えられます。外付けファインダーも必要だったでしょうし。

絞り羽根は「10枚」10角形の整った絞り形状です。

フィルター径は小口径の「22mm」
折角なので保護フィルター「ユーエヌ/UNX-9617」を新調しました。シンプルかつクラシカルなデザインに現代のマルチコートを施した高性能フィルターです。
またネジ込み式フィルターとは別に、レンズ先端を覆うA36サイズのかぶせ式フィルター「FIOLA」などを取り付けることも可能です。
ただし、A36用フィルターは当時物が全てとなり状態の良いものを見つけるのは難しく、実用よりもコレクション寄りのアクセサリーですね。

ライカ純正のかぶせ式キャップが付属していました。ジャンクレンズにはありがたい付属品ですね。
このキャップはUNX-9617フィルターを装着したままでもしっかりフィットします。

ズマロン35mmのライカ純正レンズフードは「FOOKH」が用意されています。
レンズとセットで入手できれば理想的ですが単体購入ではそれなりに値が張ります。
手持ちのフードでは古いKenko製A36互換フードがぴったり合うようでした。ケラレはギリギリセーフな感じです。
ただ、ズマロン本来のコンパクトなスタイルが気に入っており、フードを付けると絞りリングの操作がしづらくなります。よほど逆光が気になるシーン以外ではフードは持ち出さないと思います。

マウント側もしっかりとした作り。段々になっているマウント内は内面反射防止に効果がありそうです。

デジタルレンジファインダーのLEICA M10-Rに装着。
Mマウントに変換するL-Mリングは日本製RAYQUALの半欠きタイプを選択しました。
無限遠ストッパー操作時にリングと干渉しない、ボディの6bitセンサー誤認識も防止する優れものです。
やはりレンズのコンパクトさが際立ちますが、フォルムとしてはM型よりも従来のバルナック型の方がよりマッチするように思います。それでもデジタルMボディで当然のように距離計連動する機械精度は見事です。

我が家の回転ヘリコイドレンズ3兄弟
左から
・NIKON W-NIKKOR 3.5cm F2.5 黒帯
・Leitz Summaron 3.5cm F3.5
・Olympus Zuiko C. 4cm F2.8
このデザインの元祖ってやはりズマロン35mmなんでしょうかね。

並べて見ると小さなカップとソーサーのような可愛らしさがありますね。
フィルター径はそれぞれ異なりますが、レンズ先端はA36サイズで統一されておりキャップやフードとの互換性があります。
ズマロンとズイコーは自分で分解整備して内部構造を確認しましたが、両者を比較すると似たような外観であっても作りはズマロンの方が圧倒的に頑丈かつ精巧です。ライカの技術力を示す強い説得力がありましたね。
ズイコーは簡素で華奢な部分があり、特にレンズ交換時に先端のローレット部分をつかんで回すような、負荷がかかる使い方は避けた方がよいです。壊れることはないとしてもパーツが緩んでしまう再分解の必要が出てきます。
まとめ
所有するライカ製35mmは「SUMMARIT-M 35mm F2.4 ASPH.」が最も手堅い選択となるのですが、オールドレンズのSummaron35mmもなかなか侮れない高い描写性能を持っていますね。
鏡胴は沈胴タイプではないのでデジタルMやミラーレス装着時の干渉リクスの心配なく使えます。
ただソニーαだとカバーガラス厚の影響が若干周辺解像がスポイルされているようにも見えました。またAFアダプターLM-EA9では無限遠ストッパーが干渉するのでAF化も出来ません。
とは言え中心部の解像は良好かつ周辺光量落ちが大きいために周辺解像の粗が目立ちにくく、使い方によっては十分に実用的な印象を受けましたね。
以上【Leitz Wetzlar Summaron 35mm(3.5cm) F3.5】の外観レビューでした。
コメント