戦後日本で少数生産されたL39マウント“ズイコーレンズ”
今回のレンズレビューは国産ノンライツレンズ【OLYMPUS Zuiko C. 4cm F2.8 (L39) 】です。

このレンズはジャンク品扱いで割安に入手しました。現物を見ると動作は問題ないものの明らかに感心しない分解跡が、具体的にはカニ目レンチが滑ったキズがあり“やっちまった”経歴持ちでした。
正直言って露骨な分解跡があるレンズは修理業者へオーバーホールに出す気も削がれますし「このキズお前がやったのかぁ」と思われるのも癪です。
またここ数年内に業者へオーバーホールに出したレンズの仕上がりに疑問を感じることが何度かあったので時間を掛けて慎重にセルフメンテナンスしました。
結果としては分解で部品も傷めることなく満足のゆく仕上がりになりました。
各部はスムーズに動き無限遠や距離計精度も問題なし光学系も最大限回復はしました。もちろん専門的な検査器に掛けてはいませんが手放すつもりもないので良しとします。

発売は戦後から間もない1950年で主な販路は海外輸出や国内の米軍専用商業施設/PXなどで取り扱われていたようです。国産カメラは戦後の経済復興にむけた外貨獲得のための主要産業として重要な役割を担いました。
このレンズの逸話として元々は交換レンズとしてプロダクトされたものではなく、販売が見送られたレンズシャッターカメラ【OLYMPUS35 II】の光学エレメントを流用して製造されたと言われています。
OLYMPUS35シリーズは当初画面サイズを撮影枚数が少し多いニホン版(24x32mm)を採用していましたが、日本独自の仕様だったため輸出許可はできないとGHQによる指導が入りIII型からフルサイズのライカ版(24x36mm)に仕様変更されています。
シリーズはV型まで続き搭載レンズは欠番のII型を除いて40mm F3.5のズイコーレンズでした。
II型が販売中止となったが理由がニホン版仕様だったからなのかは定かではありませんが、
ライカ版用の交換レンズとして再利用していることからイメージサークルはカバーしており性能には自信があったのではないでしょうかね。
OLYMPUS公式HP:オリンパス製品の歴史-オリンパス35 I
マウント | L39スクリュー |
レンズ構成 | 4群5枚 |
絞り枚数 | 10枚 |
最短撮影距離 | 3.5ft (約1m) |
フィルター径 | 19mm |
最大径×全長 | 約47×21mm※ |
重量 | 約143g※ |
発売年 | 1950~52年頃まで |
大量生産されたレンズではないので流通数の少ないレア玉ですがあまり話題にならないためか極端な相場高騰はしていないようです。
このようなレンズは付属品の有無も重要でキャップ・外付けファインダー・革ケースなど純正付属品が全て揃っているものはコレクション価値がぐんと上がります。

レンズ構成は「4群5枚」テッサータイプに前玉1枚追加したようにも見える。これによって当時としては広い画角の40mmとF2.8の明るさを実現したのでしょうかね。
このレンズの入手時に注意しておきたい点はレンズ後群の絞り羽根に面する部分にクモリが発生しやすい持病があります。
厄介なことに一度清掃すれば完治とはいかずいづれ再発します。実体験では防湿庫保管で1年に1度の清掃が必要になるかと思いますね。オールドレンズの中には研磨する以外治療法はないレンズもあるのでそれらに比べると簡単なメンテで何とかなります。

鏡胴デザインはライカコピーと言った感じの固定鏡胴です。また短い生産期間の内にマイナーチェンジがあったようです。
レンズ銘板のZuikoに続く文字が「coated」から略した「C.」に変更されたり絞りリングの指標などに違いが見られます。製造効率の合理化なのか供給先などからの要望なのか想像が膨らみます。
また今回マクロレンズでブツ撮りしましたが前玉のコーティング傷みが良く分かりますね…本来は一面ブルーコートのはずです。

側面には微細なサビもあり決して美観は良くはありません。とは言え生産から70年以上経過した物ですからレンズとしての機能が維持されているだけでも良く耐えたものです。
絞りリングはクリックがなくF2.8~F16までフリーに動きます。フォーカス時はピントリング根本より先全体が回転するのでクリックフリーの方が使いやすいこともあります。

距離指標は輸出向けらしくフィート表記です。メートルと違い直感的な距離把握は苦手ですが目測撮影はあまりしないので特に不満はありません。

絞り羽根は「10枚」そこそこ整った絞り形状になります。
入手時は絞り羽根にオイルが付着しており重めの操作感。もしかするとオイルミストもあり中玉クモリを助長する一因にもなっていたのかも知れない。
絞り羽根の分解清掃には少し勇気が要りましたが無事スムーズな動きを取り戻しました。

フィルター径は「19mm」Leica Elmar50mmと同じですね。
現行生産されているフィルターは少ないがとりあえず安価なマルミ製を装着。
ただ、前玉の保護はできたものの先端の厚みが増すので純正のカブセ式キャップの収まりが浅く屋外で使えば紛失必至となります。これは次のフードを使うことで解決策になりました。

このレンズに純正フードは用意されていないはずなので手持ちの中から一番似合いそうなものをチョイスしてみました。
これはKenko製の締め付けロック式フード。結構頑丈な作りでElmar用フードFISON辺りの互換品でしょうかね。
フード先端には純正キャップもフィットし実用性も高い。ケラレもなく室内光源だけでも遮光効果は見えました。

マウント部。距離計カムは最後端の円盤部でフォーカスと連動して前後に動きます。

所有する薄型40mmとして「MINOLTA M-ROKKOR 40mm F2」と並べてみました。
描写性については真面目に比較して優劣付けるような2本ではないと思いますが、まあ当然と言うかコンピューター設計されたダブルガウスのM-ROKKORが全ての面で安定していますね。

LEICA M10-Rに装着。雰囲気はSummaron35mm F3.5の前期型に近くコンパクトで機動性に優れます。実際に使う時はこれにフィルターとフードも付けますがそれでもコンパクト。
アダプターのL-Mリングはボディの6bitセンサーを隠しつつ、レンズ側の無限遠ロックピンと干渉しない「半欠きタイプ」がベスト。
また焦点距離は40mmなので表示させるブライトフレームは35mmか50mmのどちらかを選ぶかは好みでしょうね。個人的には35mmがフレーミングしやすく感じます。

こちらはミラーレス一眼のSONY α7CIIに装着。ヘリコイドアダプターを使えば最短撮影距離の短縮も可能になります。
ちなみにAFアダプター「TECHART LM-EA9」には無限遠ロックピンが干渉するので装着不可です。
さらにソニーαはセンサーカバーガラスがライカより厚いので周辺画質はスポイルされているように見えます。可能な限り光学性能を発揮するならデジタルライカが本命と言えます。
まとめ
セルフメンテナンスが上手くいった後はある程度満足してしまってほとんど撮影に持ち出していないのが現状なんですが、
こうしてレビューとして残すことで愛着も増したのでライカで撮影する時は優先的に選んであげようかと思います。
L39で40mmの珍しさと距離計連動するズイコーレンズと言うのはなかなかロマンがありますからね。
以上【OLYMPUS Zuiko C. 4cm F2.8】の外観レビューでした。
【ライカM10-R】OLYMPUS Zuiko C. 4cm F2.8 実写レビュー
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